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鎮守の杜に抱かれて生きる力を育む「小平神明幼稚園」

自然に恵まれた最高の遊び場で「遊びの達人」に

 武蔵野の広葉樹に包まれる参道が続く。この地の守り神として、地域に敬われ親しまれている御鎮座360年の「小平神明宮」。樹齢360年のけやきなど立派な大木が茂り、神の気配を感じる参道に、子どもたちの元気な声が聞こえる。境内には昭和391964)年設立の「小平神明幼稚園」がある。

木々に包まれる参道は真夏でも涼を感じられる

 300人近い園児が通う幼稚園は、2000平方メートル弱にものぼる広大な敷地に広い園庭、遊び基地のような「裏山」、花や野菜が育つ「みんなの広場」などがあり、園児たちはこの充実した遊び環境の中で「遊びの達人」になる。

 竹林を切り開いて生まれた裏山は、「子どもの夢を形にしたような」木のブランコをはじめ、土管が貫く丘やターザンロープなど、先生たちが子どもたちの育ちと喜びを一生懸命に考えて作り上げられた宝のような遊び場。丘をそりで滑り降りるとふかふかの落ち葉が受け止めてくれる。

竹林に囲まれる裏山は「遊び場のパラダイス」のような空間

 遊ぶスペースに生えてくる竹の子はクラスで食べたり、竹の子の皮を持ち帰って家族に自慢する子どもも多い。竹として成長させていくスペースもあって、平日は子どもたちの元気な声で賑わうこの場所も、休みの日は小鳥のさえずりしか聞こえないほどの静けさに包まれる。

木のブランコは8人くらいの子どもが乗れるものと一人用がある

 園内にはさくらんぼやビワなど季節ごとに果実を実らせる果樹が育ち、子どもたちが自由に実を取って食べることができる。植物が茂る原っぱのような「みんなの広場」ではポップコーンの元になるとうもろこし(イエローポップ)やきゅうり・トマトなどクラスで相談して野菜を育て、子どもたちが手押しポンプで汲んだ井戸水を注ぐ。実った野菜は収穫してパーティーに。隣接する公営の親水エリア「八雲せせらぎ水辺」では、自作の釣り竿でザリガニ釣りを楽しむ子どもたちの姿が見られる。

 日々の幼稚園の中で、里にでも遊びに行ったような自然に思う存分、包まれながら過ごす時間は、子どもたちにとって幸せでかけがえのないひととき。

園児も教職員も尊重し、のびのびした保育を支える園長先生

 園長の宮﨑和美さんはご両親の設立したこの幼稚園で設立から47年間、運営に携わり、学校法人化の2003(平成15)年から5代目園長として、小平神明幼稚園を作り上げてきた。教えしつけるのではなく「一人一人の子の良さをとらえ伸ばす保育」を模索し、築き上げてきた。

小平神明幼稚園を作り上げてきた園長の宮﨑和美さん

 宮﨑さんはいつも子どもたちの力を信じ、「どの子もかけがえのない存在」として受け止め、見守ってきた。「子どもたちにはいろいろなところで感動させてもらっている。いろいろ問題はあっても子どもは核というものがすごい」と宮﨑さん。普段、直接、接する機会は少なくても、「子どもたちの感動や興味を広げたい」という思いで、関わる時はとことん付き合う。

 ある年の運動会の年中のテーマが「伝説のココナッツを探し求める冒険」だった。運動会前から子どもたちが園内中、伝説のココナッツを探し回っていたところ、その様子を見ていた宮﨑さんがこっそり手配。運動会当日に本物のココナッツが届くというサプライズには、子どもや保護者だけでなく先生たちも驚いたという逸話も。

 自閉症などサポートの必要な子どもを受け入れる中で勉強の必要性を感じ、本を買いあさり研修に通った。各クラスに介助職員を設け、担任との二人体制で一クラス20人ほどの保育にあたるようにした。「先生たちにもゆとりが大切」と宮﨑さん。講師含め教職員は40人ほど。「やればやるほど勉強することが出てくると思うので、現場に入っても勉強してほしいと伝えている」とも。産休、育休に入りながら長く続ける先生も多い。宮﨑さんは「先生方の子どもを預かれるような環境をつくっていくのが課題」と話す。

  「新任の先生も保育者としてはプロ」と尊敬の念を持つ園長の元だからこそ、先生たちは安心して経験を積み、のびのびと自分の保育を実践していくことができるのだと感じる。教職員が退職する時は、園を離れることを残念に思いながらも、先生の気持ちや状況を理解し応援する。

 園長が園児だけでなく教職員を「尊重される存在」ととらえているからこそ、この園には温かさ、優しさ、親愛が満ち、先生たちも子どもたちも満ち足りた気持ちで過ごせるのだと思う。

実際の体験、経験が生きる礎を築く

 神明幼稚園では自由遊びの時間をとても大切にしている。子どもたちは植物や動物など「生の息吹」に包まれながら、たくさんの興味を発見したり、その時に夢中になっている遊びに没頭する。園庭にはビールケースや板などで思い思いの世界をつくれる稼働遊具もある。

 「幼稚園は『楽しい』をつくれるところ、『楽しい』をつくれる力を育てます」という言葉の通り、子どもたちはやりたいと思った遊びを考え出し、実現するために試行錯誤する。幼児期のこの体験が、目標に向かって諦めずに取り組む「生きる力」を育むのだと感じる。先生たちも子どもたちの気持ちを尊重しながら、懸命にサポートする。行事では日々の積み重ねの延長として本番があり、学年ごとの成長やクラスの個性が発揮される。

 

園庭の様子。左はホール

 

「みんなの広場」では虫捕りに熱中する子も

 宮﨑さんは「幼稚園の3年間は変化、成長が大きい。実際の体験や経験をたくさんして、将来、何か困難にぶつかった時、めげた時に、幼稚園で培ってきたものがバネになってなんとか乗り越えていけるようなものが一人一人の中に一つでもできていたら嬉しい」と話す。

 幼児期は、生きる礎を築くとても重要な時期なのだと改めて気づかされる。

小平神明宮の鎮守の杜に抱かれて

 小平神明宮の神主でもある宮﨑さん。園の行事でもお祓いをはじめ神事と関わるものも多い。誕生会に親子で社殿に上がって参拝する「親子昇殿」では子どもだけでなく大人も厳かな心持ちで子どもの成長を迎える。神明宮の御鎮座を祝っての「こどもまつり」は盛大で、園児たちは半天や肩鈴を身にまとい、警察の立ち合いの元、400メートルほどの道路をおみこしを担ぐ。他にも、大祓いの茅の輪廻り、形代(かたしろ)の塗り絵、七夕のお焚き上げ、節分の豆まきなど、神事である日本の伝統に日常的に触れる体験は、貴重な経験となって子どもたちに染み込んでいく。

「小平神明宮」。園児たちも季節ごとに参拝に訪れる

 宮﨑さんが人を尊重する心は神主としても同じ。セキュリティを高める神社もあるが、「いつでも皆さんのお参りしたい時にしてほしい」と、小平神明宮は自由にお参りできる。

 降園後のちょっとした遊び場になる参道には歴史的石碑も並ぶ。「子どもが境内で遊ぶのは参拝客にとって迷惑になるという考えもあるが、昔は神社は地域の子どもの遊び場だった」と宮﨑さん。

 改めて参道を歩くと、園児たちは鎮守の杜に抱かれて園生活を過ごしているのだと改めて感じる。

 

 神明幼稚園で楽しく充実した時を過ごすのは子どもだけではない。保護者も子どもを通して園の魅力に包まれ、魅了される。3年間を終え卒園する時は「神明幼稚園に通えてよかった」という思いがあふれ出してきて、子どもの成長に胸が熱くなると共に幼稚園との別れに涙する。卒園後、介助職員として園に戻るお母さんが少なくないところからも、この園がいかに愛されているかがうかがえる。

 

 園児たちは20校以上の小学校に巣立っていく。「たんぽぽの種子のようにしっかりと根を張って巣立っていってほしい」という宮﨑さんの言葉。神明幼稚園でがむしゃらに遊び尽くした子どもたち。裏山に顔をのぞかせた竹の子のように、園児たちも園でのたくさんの経験や思い出、慈しみなど全てを全身で吸収して、竹のようにしなやかに、どこまでも伸びていく。

小平神明幼稚園 https://shinmei-youchien.jp/

 

書いた人 堀内まりえ

「遠くに足を運ばなくても地域に魅力があふれている」と感じています。旧知の縁に導かれた最高の出会い。時を過ごせば過ごすほど魅力に包まれていきました。ここで過ごした日々は私にとっても宝物に。

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